131日目後半:獣っ!

夜の山で獣に遭遇

日本縦断131日目(2016年10月13日)

夜の山で独りぼっち

「道の駅あまるべ」を出た僕らは、まだ明るいし適当に寝床は見つかるだろうと思っていた。

しかし歩けば歩くほど建物は消え、人の姿も見えなくなっていった。県道なので車だけは頻繁に通っているのでこの時はまだあまり不安は感じていなかった。

それからしばらく歩き続けたが、歩けど歩けど何も無い。いつの間にかさっきまで通っていた車もかなり台数が減ってきた。それでも前進した僕らだったが、とうとう陽が暮れてしまった。車もたまに通る程度となった。街灯すらほとんどなくなっていた。

時刻が18時を過ぎ周囲が完全に真っ暗になった。それでも歩き続けていると、一台の車が僕らのそばに止まり、何やら心配と驚きが混じった表情で声をかけてきた。

「おい!ここイノシシ出るぞ!」

どうやらこの先もまだ暗い道か続くようだ。声をかけたおじちゃんは本当にこんな暗い中歩くのか?と言わんばかりの表情だ。

声をかけられたことで僕らは徐々に不安になってきたが、もう引き返しても道は真っ暗なので先に進んだ。

ふと気づくと何だか先ほどから坂を上っているような気がする。まさか・・・とは思いつつも先を急ぐ。

そしてついに車もほとんど通らなくなった。若干の月明りと手持ちのライトでどうにか歩くことはできたが、今どのへんなのか、この先に何があるのかさっぱり分からず恐怖と共にただひたすら前進した。

歩いても歩いても何もない。ただ、どんどん暗闇の奥に突き進んでいる感覚だけはあった。

真っ暗な山道に舞い降りた天使

再び歩いているとまた一台の車が停止し、中から一人の女性が降りてきた。表情は先ほどのおじちゃんと同様に心配と驚きが入り混じった表情だ。いや、先ほどよりももっと深刻さが伝わってきた。

「本当にこの先に進むの!?この山まだあと3㎞はあるよ。イノシシも出るし、この先歩いて進むのは無理だよ!私の車に乗りませんか?」(後に知ることになるが、ここは熊も出る)

僕らは衝撃を受けた。やってしまったのだ。安易に地図も確かめず前進したがために、山の中に入っていたのだ。しかしもう一時間以上歩いてきたので引き返すのも同じくらいの距離があった。すると女性は続けてこう言った。

「今日はどこに泊まるの?もしよければ、この山を越えた麓(ふもと)に私の家があるから泊まっていきませんか?」

僕らはもっと先に駅がある事だけは知っていたのだが、まだまだ距離があった。何よりも今いるところは真っ暗な山の中である。僕はともかく、妻が熊やイノシシなどの獣に襲われてしまってはいけないと思い、お言葉に甘えることにした。

しかしここで問題が・・・。

車にはこの大きなトレーラーを載せられなかったのだ。なので僕はトレーラーを押して下山しなければならない。

しかし妻だけでも安全を確保できたので一安心だ。後は僕がこの恐怖に耐えて下山するのみだった。

妻は荷物と共に車に乗り込んだ。

山中で助けてくれた女性

妻が車内から撮影した僕の写真
妻が車内から撮影した僕

妻を乗せた車のテールランプが線香花火の消えるようにすーっと暗闇に消えていった。

妻を載せた車が闇に消えていく

そして僕は真っ暗な山の中で独りぼっちになった。もう車は一台も通っていない。聞こえてくるのは獣の鳴き声だけ。何の鳴き声なのかはさっぱりわからない。

それでも僕は恐怖心に蓋をするように気丈に歩いた。

獣、現る

どのくらい歩いただろうか。何事もなく結構進めたので、案外大丈夫だなと安心感が湧いてきた。

とその時、前方の斜面から何やら継続的な物音がし始めた。

「カサ。カサ。」

真っ暗なので何なのかは全然わからなかった。風かもしれない。

しかしまた、

「カサ。カサ。」

風にしては音の間隔が変だ。

そして

「カサ、カサ、カサ、カサカサカサカサカサカサ!」

と音が大きくなった。つまりそれはこちらに何かが近付いていることを意味していた。

「ヤバイ!これは完全に生き物だ!」

そう直感した僕は左右の足で思いっきり「バンバンバンバン!」と足音を立てた。子供が泣いて地団駄を踏むように何度も立てた。

(しかしこの時なぜか声は出なかった。)

林の中だったのでこちらから獣の姿は見えないが、相手にもこちらの姿は見えていないはずだと思い、威嚇のため思いっきり足音を立てた。

すると、こちらの存在に気付いた獣は降りてきた斜面を猛スピードで「ガサガサガサガサガサ!」と山の斜面を駆け上がっていった。

距離にして50cm。かなり近距離まで来ていた。本当に左足のすぐそばまで来ていた。だが、獣がいた場所は草木に覆われており更に真っ暗だったため姿は見えなかった。

昼だとこんな感じ。ここの左端を歩いていた。見ての通り電線はあっても街灯はほとんど無い。

もう僕の心の蓋は溢れる恐怖心を抑え込むことはできなかった。落ち着こうと深呼吸するも心臓の鼓動は激しく、全身の毛穴は開ききり、手足は完全に震えていた。

しかしまだ道は2㎞も残っている。果たして無事生きて下山できるのだろうか。

この時は本当に死が頭をよぎった。

しかもトレーラーには食料も積み込んであるので、長い時間山の中にいる僕はかなり危険だった。臭いを嗅ぎつけられれば終わりだ。

何度も深呼吸をしてとりあえず生きなければと思い、僕は走って下山することに決めた。

まるでバイオハザード

僕はフルマラソンのタイムが3時間40分前後と体力的にはそこそこある方だが、この時はすぐに息があがった。ほんの数百メートル走っただけですぐに苦しくなった。あまりの恐怖で心拍数が相当なものになっていたのだろう。

しかしそれでも止まるわけにはいかなかった。「苦しいが死ぬよりはマシだ!」とひたすら走った。後ろを振り返るのも恐怖でただひたすら前だけを見て走った。

トレーラーは走って押すと荷物のせいで蛇行する。僕は横転しないように、かつなるべく減速しないよう全力で走った。もし横転し荷物が飛び出して散乱すればもう一巻の終わりだ。

しばらく走っているとトンネルが見えてきた。

トンネル内は明るいので前後の確認ができる。もし獣が現れても距離があるので少しは冷静さを取り戻せるだろうし対処の準備もできる。僕はトンネル内で休憩も兼ねて歩いて進んだ。前後を何度も確認しながら歩いた。

山の中のトンネル

不思議だが、この時の僕の頭には映画の「バイオハザード」や「エイリアン」の映像が流れていた。映画で見た、人間が逃げ惑う光景。「今まさに自分がその状況にいる」そんな気分だった。

だが映画の死に役になるわけにはいかない。僕はとにかく生きて下山することだけを考えて進むことにした。普段僕は動物保護に関心のある人間だが、この時だけは「もし最悪襲われたら、殺してでも生き延びる」そう強く思った。「あ、これが人間の本能なんだな。普段優しい心を持っていても、本能的には他より己を選ぶんだな。」となぜか冷静に学んでいる自分に驚いた。

そんな無駄な事が頭を埋め尽くしいる間にトンネルの出口まで来てしまっていた。出口が近付くにつれ、また心臓の鼓動が激しくなる。トンネルを出ればまた真っ暗闇だ。僕は出口で立ち止まり二度深呼吸をし、再び走り出した。

記録だけは残しておこうと思い、トンネルを出る際に撮った写真。普通にしていたつもりが、下の写真とは違い顔が恐怖でいっぱいだ。
恐怖を隠し切れない顔

独りで歩き出した時の写真がこれ。この時はまだ冷静さが若干残っている表情。
山の中を独りで歩くことに

命辛々下山

そしてどんどん恐怖心は膨らんでいった。恐怖のあまり僕は着地の足音を周囲に響くように「バン!バン!」と鳴らして走る事にした。これはそうとう足と膝に衝撃がきた。

約2,000㎞を歩いてきた下半身にはそうとうこたえる。

しかしこの時も声だけはでなかった。

こうしてもう一つトンネルを抜け、いよいよ下山(下り)となった。

下り坂はスピードが出てしまうのでトレーラーはさらに蛇行した。カーブで片方の車輪が浮き上がった。今考えれば横転しなかったのが不思議なくらいだった。

足も膝もかなり痛い。アドレナリンで痛みを感じないはずだが、かなり痛い。森中に響き渡るほど大きな足音を立てていたので当然だ。

息も恐怖で苦しいのかスタミナ切れで苦しいのか分からない。とにかく苦しかった。

すると前方に民家の明かりのようなものが薄っすら見えてきた。

しかしまだ安心はできない。スピードを緩めずとにかく走り続けると、それが民家の明かりだと分かった。

一軒の家の前に差し掛かった時、調度妻が僕を出迎えに外に出てきた。

生きて山を抜けられたはずだが、心臓は震えている。もう安全なはずなのに心臓から手足の先まで震えている。

先ほどの女性も出てきて、僕を家の中に招き入れてくれた。

この日は眠りにつくまで震えが止まる事はなかった。

女性宅に到着
夜の山で獣に遭遇

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