15日目後半:死にゆく子猫

死にゆく子猫を蘇生中

日本縦断15日目(2016年6月19日)
今から書くことは全て現実に起こったことである。涙腺の弱い方はハンカチのご用意を。

命の儚さとそれゆえの大切さを知ることができよう。

大雨に濡れ死にゆく子猫

大雨の中、山を越えてへとへとになりながらどうにか街らしき所に下りてこられた。

時刻はもうすぐ正午。昼食もまだなので少々空腹になってきた。距離もまだあと約25kmもある。早く先を急ごうと濡れた地面に気を付けながら足を速める。

急いで歩いていると反対側の歩道で中年の女性二人が悲しそうなやるせないような表情で、何か地面を指さしているのが見えた。

真剣そうな雰囲気だったのでその指の先を見ると、濡れた黒っぽいゴミのような物がある。

よく見えないが、わざわざ雨の中傘もささずにゴミなんかを指して話し込むはずがないと思い、僕はもう一度その塊を凝視した。

すると何か細いものがクネっと一瞬動いた。ほんのわずかだが動いた。

僕は瞬時に察した。

「これは生き物だ!」

とっさに先ほどの女性二人の表情を思い出し色々と頭を働かせた結果、これは交通事故にでもあった猫か犬だろうと思った。

そう答えを出す頃には僕の体は既に反対側の歩道にあった。女性たちはすぐそばのラーメン屋の従業員のようで、僕と入れ違いでお店へと戻っていった。

僕がその塊へと近づくとほんのわずかだが動いているように見える。しかしびしょ濡れで何かはまだ判別できない。しゃがんでよく見ると、びしょ濡れで毛が全く立っていない子猫である。

僕の存在に気付いて危険を感じたのか、鳴こうと口を開けるが全く声が出ない。最後の力を振り絞るかのように口をできる限り大きく開けて鳴こうとするがかすれた息が「クー、クー」と出るだけである。目も開いていないが、口だけは開けよと必死だ。お尻からは便も漏れている。

おそらく親猫に助けを求めているのだろう。しかし周囲に他の猫は見当たらない。

子猫はお風呂上りの猫と全く同じように全身ずぶ濡れだった。この状態で長時間放置されていたのだろう。寒さで震える状態も通り越して全身は少しも震えていなかった。

これはもう死ぬと分かった。妻ももうダメだという表情。僕も諦めて前に進もうと思った。

しかし子猫は鳴こうとする仕草を止めない。まだ諦めていないのだ。

だったら手を貸そう。そう決めた。

手を貸すと決めたはいいが、僕らは獣医ではない。動物のことなど何も知らない。ただの犬好きなだけだ。

だが考えている暇はなかった。すぐに持っている道具で濡れた体を乾かすことにした。

まず始めに大量のトイレットペーパーで体中の水を拭き、その間に持っていたキャンプ用のバナーとフライパンでお茶を沸かした。色々考えて僕がとっさに思いついたのは、ビニール袋に熱したお茶を入れて簡易的な湯たんぽを作ろうと思った。

「これでイケる!」という確信はなかったが、とりあえず熱は必要だと思いお茶を沸かした。

今日はあまり飲料を持っておらずお茶は僕らにとっても生命線だが、今死にゆく命には代えられない。しかも後先考えている余裕などないのだ。一瞬たりともないのだ。

体を拭く時は心臓マッサージではないが刺激を与えるために、そして体温を上げるために体を優しく揉むようにマッサージしながら拭いた。

それでも思うように体温は上がっていなさそうなので、水を拭き終わるとお茶が沸くまで直接手で温めた。

子猫を直接手で温める

すると子猫は少しずつ意識を取り戻してきたように見えた。

しかしまだ安定はしない。予断は許さない状況だ。

僕が蘇生している間、妻は近くの動物病院を探す。しかし残念なことにここは田舎だ。動物病院などない。しかも今日は日曜だ。どこも電話を取らない。24km離れた一番近い動物病院も閉まっている。

万事休すだった。

もう死を覚悟した。

しかし今僕らにやれることはしようと既に決めた後だったので手は休めない。

ずぶ濡れの子猫を拭く

お茶が沸いたが直接ビニールに熱したお茶を入れると破れそうだ。しかも地面に直接置くと地面からの冷えですぐに温度が冷めそうだと思ったので、ビニールにもトイレットペーパーを詰めてそこに熱したお茶を入れることにした。湯たんぽというよりも、即席の温水ウォーターベッドである。サイズも子猫に合わせ、地面からの冷えを考慮しベッドは厚めにした。

今思えば、まるで冒険野郎マクガイバー並みのひらめきと判断力だった。マクガイバーは僕の幼い頃からのあこがれの人だ。この時彼が乗り移った気がしていた。

ベッドは完成したがまだ温度は熱いので寝かせられない。手で温度を測り火傷しない温度になるまで待つ。なかなか温度は下がらない。逆に考えれば地面からの冷えにもある程度耐えられるということだと判断した。

一刻の猶予もない。

まだ寝かすには熱いが寝かすことにした。火傷しないように念のため子猫もトイレットペーパーでなるべく隙間に空気が入るようふわふわに分厚く包んだ。保温性も高めるためだ。間に空気が入り留まると保温性が高まるはずだ。

名古屋時代よく緩衝材としても使われるプチプチを我が家では防寒対策で窓に貼っていたし、羽毛布団やダウンジャケットもよりふわふわした方が空気が入り保温性があると聞いたことがあった。寒い地域の二重サッシも同様の原理らしい。

仕上げに熱したお茶を入れ簡易ベットにしたビニールの余った部分をさらに上から包むように被せた。

とりあえず一段落だ。これであとは体温が戻るのを待つしかない。

子猫を包む 簡易ベット温水ウォーターベット完成

僕らを助けるおばあさん

子猫の蘇生をしていると地元のおばあさんが通りかかった。

おばあさん:「あんたら何しとんの?」

僕たち夫婦:「子猫が死にかけているので助けてます。」

おばあさん:「まあ!今時こんな人がおるんやねー!私も子供の頃同じことしてよく親に怒られたわ。偉いねー!」

とおばあさんは感激している様子。少し涙目だ。時刻はちょうど正午頃。色々考えたのだろう。おばあさんはこう続けた。

おばあさん:「あんたらお昼は食べたの?」

僕たち夫婦:「まだです。」

おばあさん:「私が子猫は見とくから、あんたらそこのラーメン屋でお昼を食べてきなさい。お金は私が出すから。」

僕たち夫婦:「大丈夫ですよ。この子が元気になるまでそばにいます。」と断る。

心苦しいがそれどころではなかったので仕方ない。

おばあさんは何度も感動していた。そしてしばらくしてラーメン屋に向かった。現状、これ以上僕らには何もすることはないが、子猫のそばを離れることはできなかった。しばらくするとおばあさんが戻ってきてこう言った。

おばあさん:「あんたらあそこのラーメン屋でご飯食べてきー。話はつけてあるから。」

おばあさんは居ても立っても居られなかったのだろう。子猫を救おうとしている僕らのためにラーメン屋に行って僕らのお代を自分に回すよう話してきたのだった。

それでも僕らは何度か断ったが、子猫も今は寝むっているようだし見守る以外にもう他に何もできることはなかったのでお言葉に甘えてラーメン屋に向かった。

子猫が気がかりだが、この後まだ山越えが残っていた。以前(11日目:死が頭をよぎる)のように山中で食事に困ったことが頭をよぎる。このあとは食事を摂れない可能性もあったのでここで食べておくことにした。

しかし子猫のことが気になり過ぎてラーメンの味など全く分からなかった。ほんのり塩分を感じる程度だった。そのくらい気になって仕方なかった。

死の淵から舞い戻る

ラーメン屋からはほんの15分くらいで戻った。

子猫はまだ寝ていた。いや寝ているようだった。もしかしたらもう死んでいるかもしれないと思い少し体を持ち上げて手でなでてみた。

すると意識を取り戻した。少し元気になっていた。僕らも少し安心したが念のためにもうしばらく寝かすことにした。

ベッドの温度を確認すると少し冷めていたので再度お茶を沸かしてベッドに追加した。

気持ちがいいのだろう、子猫はまた静かに目を閉じた。

10分くらいたっただろうか、子猫の体温が上がり過ぎていないか確認した。すると子猫は結構動くではないか。どこかに向かおうと僕の手から逃れようとした。鳴けるようにもなっており、だれかを呼んでいる様子だ。

そういえば蘇生をしている間に、僕の背後の草むらを何かがカサッと動いた気がした。

しかし草むらの向こうは川だ。ということはこの草むらが住処か親猫がいる場所なのだろうと思った。念のため草むらを探すも親猫はいない。

しかしどこかから子猫の声がする。僕らが蘇生した子猫ではない。もっと元気な声だ。

するとそばの建物の裏にもう一匹子猫がいた。人間から身を隠すように体を小さく丸め込ませて鳴いていた。

僕は確信した。この近くに親猫がいると。

草むらにはいなかったので、そばの橋を渡り川の反対側からこちら側を見渡すことにした。川といっても幅は7~8mといったところだろう。すぐに反対側に行って周囲を探す。

すると下水管の入り口に一匹の大人の猫がいた。こちらを警戒している。僕が動くとすぐに中に隠れる。しかし僕が気配を消すとまたすぐに入り口に現れた。

子猫の親猫

望遠レンズでさらによく見てみた。すると足元に子猫らしき姿が見えた。

親猫と別の子猫02 親猫と別の子猫

親猫は僕らが蘇生した子猫と毛が全く同じだった。どうやら親猫で間違いなさそうだ。僕は親猫の存在と居場所を確認するとすぐに蘇生した子猫の元に帰った。

ヨタヨタしてはいるが、子猫は一人で歩けるまでに回復していた。一刻も早く親元に帰りたいのだろう。

もう僕らにできることはないと判断した。あとは親猫に温めてもらって母乳をもらうなり餌をもらうなりした方が良いと思った。

万が一それでダメならそこまでの命だったのだと受け入れないと僕らも旅に戻れない。もちろんこのまま一緒に旅に連れていくことも考えたが、宿泊施設には泊まれなくなるし万が一病気になったりしても病院にも連れていけないし適切な処置はできない。あと旅は3,000km以上も残っている。

しかも目の前には親猫がいるのだ。だったら早く親猫に帰す方が最善の策と考えた。

善は急げだ。すぐに子猫を親猫のいる草むらに運んだ。

一難去ってまた一難

子猫を草むらに運ぶとそこには新たに死にかけた子猫がいた。毛の色は真っ白で先ほど見た親猫とは違うが、いる場所といいサイズといい僕らが助けた子猫の兄弟で間違いないだろう。

蘇生した子猫と新たな死にかけた子猫

一難去ってまた一難である。見かけてしまったからには助けないわけにはいかない。この子猫も酷く弱っている。だが幸い意識はあるし震えてもいる。

最初に蘇生した子猫よりはまだ大丈夫のようだ。しかしこのまま放置すれば震えも止まり、あとは死ぬだけだろう。こうなったら一匹助けるのも二匹助けるのも同じである。

びしょ濡れの体を拭いてあげようと手を伸ばした瞬間、

「シャーッ!」

と物凄い剣幕で威嚇してくる。今にも襲い掛からんとばかりに歯をむき出しにして全身で威嚇してくる。

しかも兄弟であるはずの僕らが蘇生した子猫にまで威嚇を始めた。何かおかしい。

この白い子猫はまだある程度動けるし、ここまで威嚇すると逆に僕らが怪我をする可能性がある。野良なので病気をもらうのも心配だ。そしてこの子猫のいる場所はそばが川である。すぐ後ろは斜面になっているのでこれ以上捕まえようとすれば白い子猫が川に落ちかねない。現に僕も落ちるギリギリのラインで踏ん張っていた。

川の流れは昨日からの大雨でかなり速い。子猫が落ちれば死は免れない。人間も同じである。これ以上の危険は冒せない。

すると白い子猫が激しく威嚇するあまり自分の体を支えきれず少し斜面を転げ落ちる。もうこれ以上は危険だ。

ふと頭上を見るとそこにはスズメバチもいた。スズメバチの巣が近くにあるのかもしれない。

もうダメだった。

撤収するしかなかった。

雨は降ったり止んだりだが幸い昨日や今朝ほどの大雨ではなくなっていた。それにこの白い猫のいる場所はある程度葉っぱのある小さな木の根元だ。

これなら多少濡れるが直接雨に打たれることは少ないだろうと判断した。

もうあとはこの白い猫の生命力を信じてあげることしかできなかった。

蘇生した子猫だけでも親猫の元に帰すことにした。木の枝で蘇生した子猫を親猫のいる下水管の入り口に押した。すると子猫は自分の足で少しずつ歩いた。また押す。また自力で歩く。

相変わらずそばにいる白い子猫はその場にとどまり威嚇を止めない。

なんとか無事蘇生した子猫を親猫のいる下水管の入り口近くまで行かせることができた。これで一安心だ。

親猫の隠れている下水管の真上に立っている蘇生した子猫
蘇生した子猫が親元に戻る

念のため再び川の反対側に渡って望遠レンズで住処を確認すると、先ほど排水管の上にいた子猫がいなくなって、排水管の中に同じ毛の色の子猫がいる。濡れた感じとぐったりした様子からするにおそらく蘇生した子猫だろう。

先ほど親猫といた子猫にも似ているがおそらく違う。この後すぐにそう判断できることになる。

住処に戻った子猫 ぐったりした子猫

胸をなでおろして旅を再開すべく荷物のある場所へ戻る。するとラーメン屋の方から「ほらお食べ」というような声が。

そう、おそらく親猫と一緒にいた子猫は元気でラーメン屋に餌をもらいに行ったのだ。

はっきりとは分からないがこの猫の家族は子猫が3~4匹いて、そのうちの2匹が僕らが蘇生した子猫と威嚇してきた白い子猫だ。残りの兄弟は元気だったようで雨が止んだのでラーメン屋に餌をおらいにいったようだ。

残念なことに蘇生した子猫が住処に戻っても親猫は現れなかった。

テレビでしか観たことのない動物の生き様

僕らは旅の準備を始める前に子猫の体や便で汚れた手を洗いに再び先ほどのラーメン屋に行った。ラーメン屋では快く手を洗わせてもらったのだがここで驚きの話を聞かさせる。

実はあの親猫には3~4匹の子猫がおり、うち1~2匹ほどは目が見えないのだとかで育児放棄されているという。親猫は見向きもしないのだとか。

それで大雨の中助けることもなく放置したのかと納得した。

白い子猫もあんなに住処のすぐそばにいるのに帰ることなく雨に打たれている理由が分かった。あんなに威嚇したのも、親の愛情を受けていないなら自分の身は自分で守ろうと必死だったのだろう。

僕らが蘇生した子猫が住処に戻っても親猫が現れなかったのも納得した。

悲しいがこれが野生の現実である。

元気な子を優先する。少しでも子孫を残すための術である。

これまで動物番組でしか観たことのなかった野生の動物たちの生き様を目の当たりにした出来事だった。

子猫を助けた理由

僕は猫好きではない。どちらかというと少し前までは嫌いだった。

僕は元々犬が好きで、我が家や叔母が飼っていた犬から命とは何かを学ばせてもらった。1匹は心臓病で寿命よりは早く亡くなったが、それでも15年は生きた。

もう1匹(飼い主は同居の叔母)はつい最近亡くなったが寿命を全うした。歳は拾った犬なので正確には分からない。ここ2年ほどは少し介護も手伝ったが、その時は正直面倒にも感じることもあった。しかし今思えば最後まで一緒にいれることができて本当に幸せだった。命の終わり方を学んだ。

この家族ともいえる犬たちのおかげで、僕は人を含め生き物に対しての愛情が深まったのだろう。

ちなみにこの拾った犬は17~18年前に交通事故に合って死にかけていたのを助けた犬だ。去年の夏も子犬を拾って保護し、新しい飼い主を見つけたことがあった。

亡くなる寸前の愛犬。(ふさふさだった毛も抜けやせ細っていく。死を前にしても一生懸命生きる様子。)
介護される我が家の愛犬

今回は読者の皆さんにも救える命があるし、命の尊さを感じてほしくてブログに載せた。撮影は病院探しや蘇生で手が空いた時に行った。

濡れた体を拭きながらキャンプ用バーナーでお茶を沸かす様子
濡れた体を拭かれる子猫と沸いてるお茶

死んでません!気持ちよく眠っている子猫の様子
気持ちよく眠っている子猫

子猫を蘇生している様子
子猫を蘇生している様子

子猫を蘇生している様子02

実は土砂崩れや落雷の寸前だった

ずぶ濡れの子猫を見つけてから2時間が経とうとしていた。まだ道のりは25kmもある。育児放棄された蘇生した子猫と白い子猫がどうか力強く生きてほしいと願いつつ旅路に戻った。

日が暮れるのとほぼ同時に今夜の宿泊先に到着。

部屋に入ってテレビをつけると、緊急速報が流れている。土砂崩れの警報が解除とのこと。大雨・洪水・雷注意報は継続中とある。

実は歩いているうちに今日のコースが危険なことになっていた。午前中で大きな山を越えていて本当によかった。あの急こう配の長い山々が後半にきていたら、土砂崩れや雷にあっていたかもしれない。

山には避難する場所もなく、もちろん人もいなかった。ちなみに昨晩は雷が凄く地震もあった。その影響は今日も続いていたのだ。

本日の歩行データ

宿泊場所 東横イン新八代駅前
歩行距離 35.03km
歩数 51,369歩
15日目の歩数
疲労度 10/10
死にゆく子猫を蘇生中

4 件のコメント

  • あきらさん!元気かい?コメントしたよ🎵w
    私も1人でワンコ飼ってるので、生き物の命についてはよく考えるよー。動物界の命へのシビアさは切ないよね。でも目の前にまだある命を助けた行為は決して間違ってはいないと思う!だって我々は人間だものw。人間という動物は感情があるんだ!だからお二人の行動を私は尊敬するし、ありがとう!って思った!以上だよ。w

    • 有難う!なつきも犬飼ってるんだ!人間だものって、なつきも大人になったね~^^(笑)お互いつもる話もあるでしょう!旅から帰ったらまたお話ししましょう。なんなら旅の途中で差入れに来てもいいよ~(笑)現在山口県の長門市油谷、日本海側を北上中!

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