10日目前半:沖縄をこよなく愛するおばあさん

おばあさんの手を握る 歩記

徳を積みたい

今日の天気は晴天。昨日までの大雨が嘘のようである。

まずは昨日整理して要らなくなった荷物を自宅に送るため郵便局へ。するとガス管は送れないとのこと。普段物を送ることがほとんどないので、ここでもまた学んだ。

妻が手続きをする間、僕が郵便局の前で待っていると通りかかる人たちが不思議そうに見ている。中には声援を送ってくれる人もいた。

そこへ一人のご年配の女性が会釈をしてこちらに近寄ってきた。さぞかし不思議だったのだろう、色々と話しかけてきた。

いつものように沖縄から北海道まで日本縦断中だと説明すると、「沖縄の人なの?」と様子が一変した。どうやらこのおばあさんは沖縄が大好きらしい。戦争から政治、伝統工芸など色々な話をした。

戦争当時から日本政府が行ってきた沖縄に対する行為を恥じて生きてきたし、今でも詫びる気持ちでいっぱいなのだとか。とにかく謝りたいし、沖縄が大好きなのだとか。

僕は祖父母から戦争の話は一切聞いたことがなかった。祖父が亡くなる少し前に、このままではまずいと思い一度だけ聞いたことがあるが満州で手を撃たれ今でも痺れるという話しだけで詳しくは語らなかった。今思えば祖父は前を見る人だった気がする。

問題が起きても前進あるのみという感じだ。僕が一つ目の高校を辞めた時も、「○○高校に行きたいから辞めた」と言うと「なら良い。頑張れ。」と応援してくれた。高校を辞めたら普通の大人は怒るか呆れるだろう。実際応援してくれたのは祖父だけしか記憶にない。

そんな祖父だったので戦争の話はその一度きりだった。常に前を見たかったのか、それとも僕ら孫には前に進んでほしかったのか、今となっては分からない。僕の中の戦争観念は学校、テレビ、新聞などなど沖縄の社会から埋め込まれたものだ。(一部歪曲されていると個人的には思っている。)

話しを戻す。

このおばあさんは僕らを気に入ったのかカンパをさせてほしいという。少しでも沖縄の人の力になりたいと言う。

「いったん自宅に戻ってお金を取って、この先の駐車場で待ってるから必ず来てね。」と慌ててお金を取りに帰っていった。

不要になった荷物の郵送手続きも終えて歩みを進めると、先ほどのおばあさんが言っていた駐車場が見えてきた。まだおばあさんは来ていない。

おばあさんからお金をもらうのも気が引けるので通り過ぎようかとも思ったが、「沖縄の人に謝りたい、助けたい」という言葉が引っかかりおばあさんを待つことにした。

間もなくしておばあさんが戻ってきた。

ご丁寧にカンパをご祝儀袋に入れてもってきた。中身は明かせないがカンパという額ではない。多すぎる。

外見からはお金持ちという感じでもないし、もちろん仕事に就いているという年齢にも見えない。聞けば翌週に手術を控えているというではないか。心臓が弱いのだそうだ。またご主人の介護もしており、それにもお金がかかっているという。それでも「自分は徳を積みたい。自分の洋服を一、二枚我慢すればいい事。あなたたちの力になりたいの。徳を積むことで自分も幸せになれるから。」という。

久々に「徳を積む」という言葉を人の口から聞いた。徳を積めているかどうかは別として、僕もこのフレーズは好きで何かある度に心の中でそっと唱えている。

同志な気がした。

安岡正篤先生の教え

ここで読者の皆さんにある人物を紹介しよう。

安岡正篤である。

知っている人も多いかもしれないが、安岡正篤(やすおか まさひろ/1898-1983年)は、大阪府大阪市出身の陽明学者・思想家・教育者である。
(※陽明学とは儒教の一派のこと。 参照:ウィキペディア致知出版

歴代総理大臣から大企業の経営者といった過去から現在に至るまで、名だたる政財界のトップリーダーに師と仰がれている人物だ。「平成」の元号の考案者としても有名だが真実は定かではなさそうだ。昭和天皇の終戦の玉音放送に加筆し原稿を完成させたという話もある。

僕自身も何人かの経営者の本を読んだ時にこの方が度々登場するので以前から名前は知ってはいた。まだ直接この方の本は読んでいないが、いつか読みたいと思っていた人だった。

実はこの安岡正篤先生(あえて先生と呼ぼう)の教えに感銘を受け今でも学び続けているのが、前述のおばあさんであった。

これなら「徳を積みたい」という言葉も納得である。金額にもまあ納得した。それだけの気持ちを込めたということだと。

おばあさんは寄せ書きも写真も拒否した。おばあさんなりの流儀がそこにはあるらしい。目立つようなことはしたくないのだそうだ。これも安岡正篤先生の教えなのだとか。それでも住所の交換はしたので、落ち着いた頃にでも手紙を書くとしよう。

おばあさんにお礼を言い再び歩みを進める。振り返るとおばあさんはもうほぼ泣いている。まるで自分の孫との別れのように悲しそうな表情を浮かべている。

おばあさんと出会ってここまでの時間、わずか20分だ。人間関係は時間を超えてこうも濃密にもなれるものなのかと思い知らされた出会いだった。

一生の財産になろう。

再び蒸気屋へ

おばあさんの悲しむ姿を最後まで見れず前を向いて歩いていると、ここでも偶然か、あの蒸気屋があるではないか。

蒸気屋とは鹿児島に到着した当日に立ち寄った「かすたどん」で有名な和菓子?のお店である。そこで「かすたどん」や「はるこま」といったお菓子を購入した際、そこの従業員さんたちにドリンクなどの差入れを戴いたのだ。

その差入れのお礼を言おうとお店に入ると、「わざわざ有難うございます」とまた差入れを戴いてしまった。そういうつもりではなかったのに。ちょっと心苦しい。

ちなみに購入した「かすたどん」はかなり美味しかった。ふわふわした生地の中にカスタードが入っており、甘さ控えめの蒸しパンケーキのカスタードクリーム入りという感じで美味しかった。僕は蒸しパンケーキも大好きだしカスタードクリームも大好きなので最高だった。よく近所のコープで蒸しパンケーキが売られていると、妻に気付かれないようこっそりカゴに入れる。当然すぐバレる。

蒸気屋の「かすたどん」と「はるこま」
薩摩蒸気屋のかすたどんとはるこま

「かすたどん」
薩摩蒸気屋のかすたどん

「はるこま」
薩摩蒸気屋のはるこま

今日差入れで戴いたのは銅鑼殿(どらどん) というどら焼きである。ちなみにどら焼きも大好きでよく買ったり、お供え物から失敬する。昔はよく祖母が天ぷらや肉などのお供え物を作っているすきを見て盗み食いしていた。祖母がそれに気付くと魚屋が猫を追い払うかの如く、大慌てで供える前のお供え物を僕から守った。

蒸気屋のどら焼き銅鑼殿(どらどん)

どこまでも、どこまでも、情けは人の為ならず

お店を出て再び歩き始める。ちょっとトイレに寄りたくなって辺りを探す。

そしてふと後ろを振り向くと、先ほどのおばあさんが一生懸命こちらに走ってくる。僕たちを追いかけてきたのだ。手招きで呼んでいる。心臓が悪いのにかなり無理をしている。

僕たちが慌てて引き返すと、「家の中を探したらもう○○円あったから」と手渡してきた。正直驚いたし感動した。お金にではない。心臓が悪いのに、ほんの数十分前に出会った見ず知らずの人間の為にこうまでできることに感動した。

一体どこの誰が自分のことは二の次で、ほんの少し前に知り合ったばかりの赤の他人のためにここまでできようか。

近付くとおばあさんの顔には喜びの表情でいっぱいだ。金額的に断りたいが、断ろうものならおばあさんが悲しむのは考えずとも分かったので有り難く頂戴した。戴くことでおばあさんも力になれたと喜ぶし、実際僕らも助かる。だったら有り難く戴いてきちんと宗谷岬までゴールするために使わせてもらった方がお互いにとって良い選択だと考えた。

ついでにおばあさんのご厚意で自宅のトイレも使わせてもらった。自宅はご主人の介護の為にリフォームされたばかりだった。これにおばあさんの手術費用もとなればお金に余裕があるわけがない。そう思いつつも、おばあさんの嬉しそうな顔を見るとお金を返すことはできなかった。

最後に「これも使って」とコンビニなどで使える商品券まで戴いた。おばあさんはコンビニは行かないし使い方が分からないから持っててもしょうがないと言う。

もう何が何だか分からないがもらっておこう。

このカンパに思いを込めたおばあさんの気持ちも背負って必ずや北海道の宗谷岬まで完歩すると心に誓う。

最後におばあさんが沖縄の和紙が大好きだということを知り、落ち着いたら手紙と一緒に贈ることに決めた。

おばあさんは通りまで見送ろうと玄関を出たが、すぐに足が止まった。ふと顔を見ると涙を堪えるのがやっとのようでそれ以上先には足が進まなかった。すると「見送るのは辛いからここで」と、か細い声で寂しそうに別れを告げすぐに自宅へと引き返した。去り際の表情は応援と寂しさで入り混じっていた。もう涙はあとはこぼすだけといった状態だ。

今日の旅が始まって1時間。まだ1kmしか進んでいない。にも関わらず、これほどまでに濃い出会いがあろうとは。

おばあさんへの感謝を噛みしめながら再び旅のコースへと戻った。

だが、驚きの出会いはこれだけでは終わらなかった。

後半へ続く

コメント

  1. まさと より:

    良い旅してるな。涙腺崩壊なんですけど

    • あきら より:

      毎日予想外の連続よ~!旅人になるまで旅の良さが分からんかったけど、今はよく分かる!

  2. あたぼっぎぶ より:

    涙腺崩壊なんですけど。

    • あきら より:

      それは実はブログのせいじゃないくて歳のせ・・・なんちって~(笑)ε=ε=ε=ε=┏(・∀・)┛

      有難う!!☆

  3. れいこ より:

    おばあさん。泣。

    いい旅しているね。
    いま、この記を知ることが出来てよかった!
    これからの旅もたのしみにしています!!

    応援しているよ!

    • あきら より:

      喜んでもらえて良かったよ!人生山あり谷ありだけど、楽しんだもの勝ちだ!悩みや戸惑いに時間を奪われるくらいなら、旨い飯でも食って明日の楽しいことを考えよう!この後も濃い旅が続きました。お楽しみに!この歩記が何かのお役い立てれば嬉しいです。サンキュー!ヨンキュー!ゴキュー!ロッキュー!(うちの叔母さんの口癖~(笑))

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